2009年5月14日木曜日

まずは競争のルール理解から

不勉強の極みで恥ずかしいのだけれど、このようなブログを掲げていながら
この4月に「超ガラパゴス研究会」(正式名称はIT国際競争力研究会)と銘打たれた
NPO団体が発足されたことを知らなかった。コンサルティング会社、証券会社、
通信事業者などの研究者や幹部が所属企業の代表という立場ではなく個人の立場で参加
している
のだという。現在までに開催された2回の会合の雰囲気については、日経
ITPro等
に掲載されており、もしご興味あれば確認されたい。

さて、小さいながらもこのようなブログも公式の場であることを理解するならば、
この活動への大きなコメントは本年中に発表されるという「提言」を待つべきかとも思うが、
上記のように影響力のある日経でも参加委員の実名付きで逐次論議の内容がネット上で
発表されているので、それら記事へのコメントという形で少々。

競争というのは一定のルールや比較のための基準があって初めて成立つ表現だ。
例えば自動車市場の競争というとハンドルの左右や排気量の大小にかかわらず一定の
商品の基準が論理的・概念的に作られ、それによってシェアが論じられる。ITの範疇
でいけば携帯やPCは同様に比較することができる。ここでいうところのシェアとは
最終セットメーカーのものであり、デザインから販売まで品質の責任を負ったものの
シェアである。従って構成部品や搭載ソフトウェアがどこの国で作られたかを問うもの
ではない。

ただ、携帯やPCについて少々怪しいのは、ベースハードウェアと通信方法や搭載
ソフトウェアなどの関係が自動車のように100:0の従属関係ではなくなることだ。
例えばauが3Gで採用している通信方法であるCDMAはQualcom社のもので
ある。CDMA同士の通信は規格上異なるメーカー間で可能だ。一般消費者用
PCのOSがWindows一色であることについては余計な説明はいらないだろう。
ITのレイヤーが高次に上がるに従ってサービスの相互互換性が付加価値を帯びて
いき、その付加価値がプラットフォームとなると次の付加価値を生むためのレイヤーと
なるというのがIT進化の特徴とするならば、その「とばくち」を提供することは
サービス提供品質に大きく寄与するので、従属関係をあやふやなものにする一方で
商品の販売価値を高めるチャンスを得るトレードオフとなる。

この論点からすると、この研究会でdocomoのiモードを、日本人の高い審美眼に
合わせてサービスを形成した故の過ぎた先進性であるという前提で議論していることは
聊か美化しすぎの感がある。なぜならば、iモードの功罪のもう一つの見方である
「アプリケーション・ファイアウォール」を築いたことによる上位のITサービスの
進化への阻害事実を見失うことになるからだ。すなわち、先にあげたようなnのm乗的
ITサービス進化の可能性を事前に予見していてそのような施策をとったのであれば、
それは顧客主体ではなく、自前主義に基づくだけのことであり、一方で予見できて
いなかったのであれば、偶発的なものをイノベーションとすりかえている香りがする。
つまりどちらも本当の意味での顧客理解に端を発したものではない。

一方、これによって営利メーカーであるNTTドコモが批判されるものではない。
判りやすい例では、中国ではこの議論のような合議制的センスすら認めずに
インターネット回線を厳密にフィルタし、セキュリティを中心とした自国の
ソフトウェア技術を保護しながら、より高次元のサービスがもたらす可能性がある
さまざまな「変化」を予見してサービスコンテンツを制御している。常に「保護」や
「統治」と「市場規模」や「互換性」は相反の関係にある。ガラパゴスの本質がそこから
始まっていることを見落として議論が始まっているようでは、同様に本質的な回答が
出てくるであろうはずもないことが透けて見えてしまう。

歴史的な例えでいうならば、単に見かけの国産ブランドの量確保に走るのは1825年
外国船打払令段階の幕府側の状態かのようだ。しかも論点がより未成熟なように
見えるのは、当時は鎖国政策という太い国策を柱に議論をしたのに比べ、ゴールを国際
競争力においている今回の争点は、まるでどの競争レースに参加しているかも
わからないまま、盲目的に我流の走法が正しかったと裏付けるための理由作りだけに
奔走している感がある。そうこうしているうちにもITを軸としたサービスはより
高次元へと増殖していく。

とは言え、批判ばかりでは明日畳の上で死ねないような気もするので、私なりの然る
べき論点や進め方を再整理するとこのような感じだろうか。。。

(1)ITサービス構造のカテゴリ化と相関・役割分析
ITサービスの構造を箱物、ソフトウェア(基本、付属)、アプリケーションサービス、
アプリケーション開発、規格、公共システム、コンテンツ(ゲーム、広告、コンテンツ)、
ページビュー、トラフィックなどに分けて国別のボリュームをまず理解する。国人口、
言語人口(ネイティブと利用可能言語)の要素なども加え、そこから日本が果たして
鎖国的なガラパゴスであるか、あるいは輸入超過であるか、国民数に応じた箱物
基準であるか、言語への依存度などの特性と相関を抽出し、論理的な理解を進める。

(2)上記カテゴリの傾向予測
それぞれが今後どのように進化しうるかの概略を議論する。例えば具体的には
アプリケーション開発ではオフショア化が加速するなか、日本の開発者人口変化に
対する外部要因とそれがもたらす変化のボリューム予測の表を作成する。コンテンツ
などでは、コンテンツ翻訳による輸出入傾向なども加味する。

(3)注力戦略のディスカッション
(1)(2)を踏まえ施策、戦略や方針、外部要因、アクションといった順番などで
総括に向けた整理をする。


多分、以前の投稿を読んでいた方には、ある程度私なりの結論をイメージして発言
していることに気づかれるかと思う。先に答えを、というのならばICTの進化は
「ICT言語圏=英語」「中国語」「他のローカル言語」という3つの言語圏と
サービスを受けるユーザの言語圏とのバランスとともにある、と現在考えている。
中国語を含むローカル言語圏のICT技術はICT言語圏のフィルターを通らないと
世界デビューはできない。逆も同様で、ICT言語圏をベースに作られたサービスは
ローカルのユーザ言語圏に取り込む際にエクストラなコストを払うことになる。ちなみに
インドの一般大学やICT企業では英語だけで日々コミュニケーションが行われている
という事実をみなさんはご存知だろうか。

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