2009年6月1日月曜日

キリンカップを終えて:サッカーの話題

中村俊輔不在でチリに4-0と大勝した試合を受け、彼が復帰するベルギー戦では
ひとつ違ったものが出て来るだろうと期待していたのだが、それは中途半端に肩透かし
を喰らった形となった。結果は同じ4-0での勝利。俊輔は前半のみ出場(前半は
2-0)。

正直を言うならば、心の中でドイツW杯の中田英寿の立場と同じような「お局」的
立場に俊輔は置かれているという仮説を立てていた。年齢に限らず、パサー型の司令塔
が突出した名声とチーム内の発言力を持ち始めると、その選手がボールを持った瞬間に
自分のチームと相手チームが硬直するようになり、試合の流れが分断されてしまう。
かつてビジャレアルのペジェグリーニ監督がリケルメを排除したのもそのような理由
だろう。
見落としがちな事実だが、パスサッカーを成功させるためには4人~5人の前線の選手
がパスの出し手と受け手の両方の役割を流動的に担わなくてはならない。出し手の中心
と目される選手が1人いて、味方がその選手のウォッチャーになってしまうと、ボール
の流れは平凡なスター型の構造になってしまい、相手を惑わす機動力は生まれない。
以前バーレーン戦でのマチャラ監督の戦術のところでもコメントしたが、ボールを
持った特定の選手にコンタクトすることも重要だが、その選手がボールを持ってから
動きだすフォワードのプレーヤーをマークし、パスカットか、(日本のフォワードは
正直収まりが良くないので)ボールトラップの体から離れたボールを狙うほうが安全で
効率的なディフェンスが行える節がある。

ここからは単なる勘ぐりなのだが、岡田監督はとうにそれに気づいているのではと。
当面のゴールであるW杯出場に向けたギブン・コンディションとしては自軍の俊輔
ありきのセットプレーでの得点力と、もはやアジア内で対日本戦略として定説化して
しまっている相手へのドン引きからカウンターへの対応の2点がまずありきで、少ない
得失点でいかに勝ち点を上げていくか、というのが就任直後4-1-3-2などの
超攻撃型フォーメーションを試した後の結論だったのではないだろうか。

一方で、常にその定点の上位となるの次の一手を探しているはずだ。まず手始めに
手掛けたのが右サイドに対する左サイドを対等なレベルのシステムに作り上げること
だったと思う。そこで遠藤を高めの左サイドハーフに置いたり、ある時は本来後ろ目の
安田を同様の位置で使用し(ガンバ大阪の西野監督がその起用法を揶揄をするという
一幕もあった)、という試行錯誤を経て、現在はどの選手を左サイドハーフで起用
しても左右・センターのポジションチェンジがスムーズに行われるまでになり、サイド
機軸の攻撃のバランスはある程度完成されたように見える。ある意味寄せ集めの代表
チームがそのようにスタイルを完成させることは難しいと思うのだが、日本代表の選手
たちはやり遂げた。が、それでも得点力の強化にはいたっていない(ベルギー戦後の
大久保へのコメントなども参照の程)。

事前にドン引きをお願いしても(?。来日後の湘南との練習試合で4バックを非常に
フラットな状態で臨んでいたのでひょっとして、と思っています)5-1と大勝した
フィンランドとの国際Aマッチのあと、案の定オーストラリアと0-0、バーレーンに
かろうじての1-0と渋い展開が続くなか(ちなみによくある相手が2軍だから大勝
できたという議論は一方的な云いようだ。その例えでいくならば、相手から見て欧州組
がいない状況はこちらも2軍なわけで)、監督ならずともその落差の理由を求めるな
というほうが無理な話だろう。そして岡田監督はセンターラインの得点力の「実績」
としての中村憲剛の価値を公言し始めた。それを踏まえての今回のキリンカップで
ある。

憲剛への命題は「ジェラードのようにプレイをする」ことだった(俊輔へ「ベッカムの
ようにクロスを上げてくれ」とは言わないだろう…云々の議論もここではさしおく。
経営者目線では、具体的なコンテキストの共有ほど効果がでやすいものだ)。
イングランドサッカーの伝統であるシンプルな4-4-2スタイルの中盤の至宝である
ジェラードの特長は、攻撃においても守備においても軸になる、という点だ。パワー
のあるミドルシュートの決定力やフォワードへのラストパスと同様の集中力を相手へ
のタックルにも払うサッカー。果たして今回の憲剛、特に攻撃面ではその文脈を
理解したサッカーができたのではないだろうか。

さらには副次的な効果も生み出している。特にチリ戦ではボランチ位置の遠藤、
長谷部を相手ディフェンダーの視野から消すスクリーン的な効果があったように見える。
またセカンドアタックのラインを今野、駒野なども交えながらうまく形成していた。
攻撃時に2-2-3-3となった際に後ろの4人が阿部、中澤、長谷部、遠藤だなんて
とても贅沢なサッカーとさえいえるのではないだろうか。

この2-2-3-3的攻撃陣形をベンチで見ていた内田は思うにベルギー戦で困惑
していた。これは俊輔のコメントからも見て伺える。俊輔からするとチリ戦の戦い方は
走力を重視しない「真剣みのない」サッカーと写るようだ。岡田監督もベルギー戦の
2-0以降は俊輔と同様の意見を持っているようである。ただ岡田監督が今回のキリン
カップを明確なBパターンと捉えていたのに対し、俊輔は同列で扱うことにも否定的な
様子だ。電話会議などの可能性を除けば、このBパターンについては事前に岡田監督と
俊輔は正式な会話を行っていないだろう。岡田監督は憲剛の扱い、という形に
置き換えてこの議論を不確定なものとしている。ウズベキスタン戦までのこの6日間に
岡田監督と俊輔の間でどのような話し合いがもたれるか、非常に興味がある。
自身がもたらすお局サッカー化を回避するために、走力重視を主張するだけでは俊輔側に
良い条件が少ないように見える。それとも最後には中田英寿と同じようにW杯の最終戦
終了後、1人孤独にグランドで感傷に耽るのだろうか。

どころで、チリ戦の長居のファンは純粋にサッカーを楽しんでいる様子でよかった。
テレビのマイク集音の仕方だけなのかも知れないが、ゴール裏のチャントだけでなく、
ちょっとしたプレイにざわめき立つような応援(「オーイ!」ですね)はあの試合に
相応しかったと感じました。国立のウエーブというのはそれはそれで(笑)。それを見て
一番喜んだのはスポンサーでしょう。

加えて3チーム各選手のプロ意識と、的確なジャッジもとても良かったのではないか。
やれフォーメーションだ、走力だ、という高度な(いや基本ですが)ディスカッション
以前にウズベキスタン戦では審判がアジアレベルに戻ることのなどの方が大きな
インシデントとなりうる事実に、ファンも心の持ちようを直ぐにでも変えておいたほう
が良さそうだ。

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